読書感想 前田康裕「まんがで知る教師の学び3〜学校と社会の幸福論」
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「まんが」を通して、これからの学校教育について考えることができる前田康裕先生著作の第3作目。 今回もさすがの出来。
読んでいて、ビンビンに脳裏に感じることができるのは、「まんが」を描いている方(つまり前田先生)が実際の教員である(現在は教職大学院准教授)ということですね。「まんが」から文字通りストレートに伝わってくるのです。
内容としては、これも前田先生の切実感から発生していると思われる「熊本地震」が第3作の大きな「場」となっています。
私自身、身につまされる思いで、読みました。
ご存じの方はご存じの通り、わたしは、福島県出身ですから。2011年3月11日の東日本大震災の時は、福島県で教務主任の立場でした。全体を仕切って走り回った記憶があります。あの時を思い出すと、どうもいろいろとこみ上げてきます。一番は、「何もできなかった自分」という後ろめたさですかね。
福島県は、今も、まだまだ復興はしていません。放射線問題は、現在進行形なのに、なんだか過去のもののようになってしまっています。
わたしは、実は、東日本大震災が起きたとき、人命を含め、大きな損失がありましたが、これに関してはどう振り返っても戻ってこなくて、悲しくて悲しくて仕方ないわけですけど、もうどうにもこうにもできないくらい社会システム(特に学校システム)が麻痺してしまったために、実は、古いものを乗り越える、古いものを壊す、古いものを忘れる、チャンスだと思っていました。
しかし、みなさんが(結局、わたしもその中の一員だったということですが)やったことは、震災前の状態に戻す(これは、建物など目に見えるものだけでなく、社会や学校のシステムなどの目に見えにくい運用の部分も含めて)ということでした。
目の前のものが「壊れて」なくなりそう……というとき、「新しいもの」を創るではなく、「古いもの」それは素晴らしかったものだから(と錯覚して)、その古いものを取りもどそう!という感覚に強く揺さぶられるのだなと思いました。
この、いつもながら、既存の体質にメスを入れる、主人公の吉良良助さんを中心とした学校関係者は、震災をきっかけにして様々なものを「復旧」ではなく「復興」という形で乗り越えていきます。前田先生の地震と絡み合わせたストーリーもさることながら、当時、熊本市内の教頭先生だったという前田先生の実話も相当入っているのでしょう。
そういう意味では、(もともと、そうだったと思いますが)何もできなかった私と、素敵に学校改善、改革を進めた前田先生との差が歴然としていると感じました。
無理なく、そして、なるほどと思う形で、今、学校教育でキーとなる「働き方改革」や「カリキュラム・マネジメント」が具体的に書かれてあるのも納得です。さすがだなぁ。各章ごとに関連するビジネス書を紹介してくださるのも、毎度のことながら参考になります。前回もこの本で初めて知った本をすぐに購入して、教職大学院の授業で使わせてもらいました。今回も、使える本の紹介がたくさんでした。ありがとうございます。
そして、何より、本書を読んでいて一番感じたことは、最近、学校で働くことが「ブラック」というイメージが定着しつつあり、教員になることは、損だ、夢としてはあり得ない、仕事の第一希望にはならないという感じになってきていることへの提案です。
わたしが、教員になる頃は、まだまだ教員の人気が高かったものです。そして、実際、教員としての夢と希望を持って仕事に就いた人間にとってとてもやりがいがあり、楽しく、こんなに楽しくて給料をもらってしまっていいものかという感覚で日々仕事をしておりました。
もちろん、私自身、小学校教員の後半は、教員としての仕事をし続けるのはなかなか困難だなぁと思ってきたことも事実です。しかし、今、こうして教職大学院のスタッフとして働いているのは、現場からまた別の立場で現場にいる人たちを応援したいという気持ちからです。学校の仕事って、本来楽しいものなのです。この本来、楽しく、やりがいのある仕事であるということを前田先生は強調しているように思いますし、そのようにしていく考え方、方法を具体的な「働き方改革」や「カリキュラム・マネジメント」を示すことでわたしたちに伝えようとしているのではないかと思います。